目的と意義(Objective)

 

研究の目的と意義

 
 モザイクは、教育環境において未整備の部分が多い上、知識や情報も不足しているため、今なお社会に広く認知されている分野とはいえない。その理由として絵画作品と異なり、売買(流通)の対象として扱われてこなかったこと。表現素材が大理石、ズマルト(色ガラス)、タイル等であり手に入りにくい素材である上、加工する特殊な道具と熟練した技術が必要であること。完成までに長い時間を要すること。等があげられる。しかしながら、美術の基礎教育を担う大学等の教育研究機関において、モザイクは絵画の基礎を学ぶ上で極めて重要な分野である。特殊な表現技法であるがゆえに難解な印象を持つが、そこには絵画表現の多くのヒントが秘められている。たとえば表層の材質と点描法のような表現手法は、建築構造体の壁や床という機能から派生したものであり、それは表現と技法と構造の一致である。この三位一体の関係は様々の絵画表現の本質的な意味を示唆するものである。  西ローマ帝国最後の都であったラヴェンナは、初期キリスト教時代のモザイクが数多く残り、そのうち7箇所がユネスコ世界文化遺産に登録されている。その中でもガッラ・プラチディア廟モザイクは5世紀前半に作られたラヴェンナにおいて最も古い作品である。キリスト教を精神的土台とする中心軸に、表現という精神的解放を遂げながら変化する西洋美術史の流れを俯瞰するならば、初期キリスト教美術の特色を示すガッラ・プラチディア廟モザイクは、近代西洋絵画の出発点ともいえる重要な意味を持つ作品である。このような貴重な文化遺産を研究対象とする機会に恵まれたこと自体、大変幸運なことであるが、研究室にとっては、実物に触れながら学べる貴重な教育の実践場でもある。今調査研究によって得られた数々の研究データや写真資料、学生たちが制作した模写図版は、我が国のモザイク分野および初期キリスト教美術の教育研究において貴重な基礎資料となるものである。  この6年にわたる日伊共同研究は、東京美術学校がヴィンチェンツォ・ラグーザやアントニオ・フォンタネージを教官として招聘する等、長い歴史を持つ東京藝術大学とイタリアとの文化交流に新たな一ページを加えるものである。